その7 イタリアチーズの本で、「伝統の食べ物の守り方」がわかる

2015-03-18

ずっと、ずっと地下にもぐったようにしていました。長い時間をかけてやっとできました。

タイトルは「イタリアチーズの故郷を訪ねて ~歴史あるチーズを守るDOP~」(本間るみ子著 旭屋出版)。 これは、遠く、イタリアのチーズの紹介でありながらも、実は時代と共に移ろう「私たちと食べ物の付き合い方」の本です。

 

 

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DOPとは、「農産物を国が認めてお墨付きを与え、市場にその価値を保証する」制度。 驚いたのは、2000年前後からここに登録される数が、チーズだけでも加速度的に増えている事実です。

2001年に出した「イタリアの地方に根づく味 DOPのチーズたち」(A4判)は30アイテムで作りました。

しかし、現代。今回は2014年の途中で一度、無理やり区切って本にしましたが、2001年に30にすぎなかったものが、2014年には48アイテムにもなって、いったいどれだけお墨付きを与えてブランドにする気なんだ・・・と言ってる矢先に49番目も登録されたとニュースが届きました。

 

この駆け込みラッシュの背景には、「伝統の食べ物が失われないために」と各地方の人々が必死で立ち上がり、自分たちの伝統であり誇りである食べ物を守りたいと、動いている事実があります。 逆に言えば、そこまで必死にならないと、もうなくなってしまいそうなチーズ(他の食べ物も)がいっぱいある、ということです。

時代の流れに呑み込まれたくないという人間の良心と、

時代にのって、新しいものをほしがる人間の欲求のせめぎあい。

人間の矛盾は、どこの国も同じなんだと考えさせられる本だと思います。

 

本書は、イタリアをはじめチーズ伝統国に30年通い続けるフェルミエの本間さん自身が、自分の脚と耳と目で確かめてきた現地の事実や事情、その中でたくましく真摯に生きる人々との交流を通じて、チーズを紹介しています。

 

編集者として関わった私にとっては、チーズという食べ物以上に、人々の自分のふるさとの味に対する愛着や人生が見えて、つくづく面白い仕事でした。 いつもながら、世界のどこにいっても、美味しい食べ物を一生懸命作っている人の話を、一生懸命聞いてくる本間さんならではの交流の物語も、織り交ぜられています。

 

チーズ用語は、分野外の人にはちょっと面倒かもしれませんが、40以上の食べ物と人、日本人とイタリア人の交流物語は、読み進むうちに、きっと食べ物の視野を広げてくれると思います。

こんな本は、めったに作られるものではありません。ぜひ、1冊、お近くに置いてください。  松成 容子

たまご社