たまご社発 食育通信

イラスト©森泉 千亜紀
「名シェフが教えるおいしい野菜料理」
(株)旭屋出版

名シェフが教えるおいしい野菜料理

その9

基本の「味覚」は4つ? 5つ?


「食育、5つのポイント(素材、栄養、料理、文化、楽しむ)」の中から、今回は、最近気になる「味覚」のお話をしたいと思います。

え? でも、上の5つの中に「味覚」はないよ、と思われる方もいるかもしれません。さて、ではどこに入るべきでしょう? 答えは「文化」です。今回はその理由をお話したいと思います。

味覚は、科学の面からと文化の面から、さまざまな情報が飛び交っています。

例えば、亜鉛不足になると味覚オンチになって味がわからなくなるとか、化学調味料を摂りすぎると舌の味蕾(みらい)がマスキングされて(覆われて)、他の味がよくわからなくなったり、強い味をいっそう求めるようになるとか。あるいは、人間は母親の羊水の中ですでに旨み、甘み、塩味を認識してこの世に誕生するとか。そして、母乳でこれらを改めて認知し、安心の味として自分の中に基礎を作るというのです。これを人類の歴史とあわせて考えると、甘みは糖分であり、エネルギー源として必須のもの。塩味はミネラル分として人体の機能に必須のもの。だから、本来、体がほしがる味なのだ、という説です。

さらに、自然界では苦味は毒、酸味は腐敗の目印であることが多いため、人間が生まれたままの本能でこれと出会うと、嫌うものである、ともいわれています。

味わいとは少し違いますが、マヨラー(なんでもマヨネーズ味にして食べる人々のこと)がマヨネーズに執着するのは、やはり高カロリーが得られる「脂肪」に、人類の飢餓の歴史が無意識のうちに執着するからだそうです。遠い遠い昔に形成されたという私たちの「本能」の正体は、今、こうして科学的に説明されると、とりわけはっきりと自覚はできないけれど、なるほど、そうなんですか、と思ってしまう説得力がありますね。ここまでは、科学ということで、全人類共通です。

ところで、ここからが文化の話。つまり、こうやって本能に支配される私たちではありますが、味を感じる力と幅、繊細さにはとても個人差がある。たとえば、アメリカ人が認識する味は500種類で、日本人が認識できる味は1400種類と記された文章を読んだことがあります。それほどに、日本人は味に繊細な感覚を持っている民族だというのです。うれしいけれど、ほんとうでしょうか。

その真偽はともかく、味覚の教育は「つ」のつく歳までに、つまり9つまでに、という話、よく耳にするようになりました。10歳までを過ごした場所がその人の故郷、という話ともどこか通じるような気がします。小さなときに出会った味は、その人の一生を彩る基礎になります。さらに、幼少期に作られた味覚の幅は、高齢期になって舞い戻る幅でもあります。先の話と合わせれば、日本人は山や海や四季のおかげで、ずいぶん多彩な味と出会う機会が幼少期からあり、それゆえに今日のように海外食文化も比較的受け入れやすいともいえるのでしょう。

さて、1400もの味はともかくとして、基本になる味、というのも民族間で違うことはご存じですか?  例えば、フランスを初めとする欧米諸国は『大切なのは、甘味、塩味、苦味、酸味の4つ』と子どもたちに教えます。これが中国だと『この4つにもうひとつ辛味を入れて五味』と言うし、日本の学校では『この4つに旨味を入れて五味』と習ったはずです。

旨味については、数年前、たしかにこの味特有の受容体が舌の上に見つかったと報道されたものの、フランスでそれを言うと、「それがどうした」となる。「ぼくたちは多くの場合、旨味は甘味の一つ、あるいは全体的な味の調和をそれとみなしている」というのが彼らの主張なのです。「一歩譲って旨味というのがあるとしても、その他の味、つまり金属味か渋味のようなものの一つだね」と。

「だし」の味を大事にして育った日本人ならば、この5番目の味をぜひ、子どもにも伝えなければなりません。そう、味は、その国の文化そのものなのです。

まつなり ようこ