たまご社発 食育通信

イラスト©森泉 千亜紀
「名シェフが教えるおいしい野菜料理」
(株)旭屋出版

名シェフが教えるおいしい野菜料理

その8

フランス、食の楽しいこと


フランスの「食の週間」について、ざっくりまとめたいと思います。期間の1週間には様々なものがありますが、よく報道されるのは以下の(1)と(2)。あとは、年によっていろいろです。

(1) 「ぼくの教室にシェフがやってくる!」

1990年に始まって以来、この全仏的なイベントのなかで最も注目を集めているのは、シェフが小学校の教室にやってくる、というワクワク企画でしょうか。スタート当初、全仏で500人だったボランティアシェフが、1997年には3,000人を超え、今では受講生徒が150,000人規模。こうなると、レストランの料理シェフだけでなく、菓子職人、チョコレート職人、ハム・ソーセージ屋さん、チーズ屋さんなども含まれていて、いかに町の食の職業人たちが総出で支えているかがわかります。と同時に、子どもたちも先生も、とっても楽しみにしているのです。

日本でも、「キッズ・シェフ」というイベントが日本各地でスタートしていますね。1999年秋に、「オテル・ドゥ・ミクニ」の三國清三シェフを中心に結成された《日本フランス料理最高技術組合》に加入する超一流の料理人たちが、手弁当で近くの小学校に出向き、子どもたちと一緒にメニューを考えたり、料理を作ったりしているのです。フランスからのオススメもあったのですが、これ以前にも、独自に学校で子どもたちにお話を、と考えた料理人や食のプロは日本にもいました。でも、学校という壁はなかなか高く、時代の後押しがあって、やっと3年ほど前から広がり始めました。

(2) 開会イベント

フランスの場合、このイベントの主催者は「フランス国立食文化評議会CNAC」。厚生省、文部省、文化省、観光省、農務省という5つの省庁の管轄下にある組織です。

開会イベントの音頭取りも当然ここですが、どどーんと華やかに行われる時と、「いったいどこで…」というくらい静かに行われる時と、その違いは予算でしょうか。

いえ、ひょっとしたらもう「盛り下がって」いるのでは…と懸念もしましたが、「十分知れ渡っているので、いちいち派手に告知しなくても、どのイベントにも人が集まってしまうんです。フランスというのは、こと食べ物に関してはそういう国ですから」というのは主催者の一人。たしかに、それはそれぞれの会場で、なぜ、大きなポスターも垂れ幕も呼び込みもなくて、こんなところにこんなに皆さん、集まってるの? と聞きたくなるような、それぞれの会場の混み方でした。

(3) 例えば、コルドンブルーの公開講座

いまや世界各地11ヵ所に教室を持つ、フランスの料理専門学校。その本校ではこの期間、デモンストレーションと試食付きの授業を生徒たちと一緒に「無料で」受講できるという枠(通常は入学希望者に有料で設定している枠)が数人分、設けられます。インターネットで知ってすぐ申し込んだのに、すでに「ほぼいっぱい」状態。お菓子の講座なんて、まったく空きはなし。行って見ても、「募集」なんてこと、全然書いていない。それなのに教室では一般無料参加の老若男女が最前列に陣取り、デモをする教授に「トレビアン」と声をかけたり、質問も試食も学生より先にやってのける。情報は自分から手繰り寄せる。美味しい物は我れ先に手を出す。「それがフランス」だそうです。

(4) 例えば、ワイン博物館、写真美術館

静かな住宅街の奥まったところにあるワイン博物館。この期間、中には様々な地方のワインとパンと何種類かのパテやハムがあちこちに並び、そばには中世風衣装を着た愛好者たちが立ってご自慢のワインを勧めてくれます。衣装もワインごとに違うのですから、なんとも華やか。一定の料金を払うと飲み放題、食べ放題、のシステム。平日の昼間っから…いったい…。でも、時間が合うと、大人にはとってもおトクなイベント。もちろん、ぎっしりの人と、テレビ取材付きでした。

美術館では、三ツ星シェフ(ピエール・ガニエール)が織り成す食材と料理の美しい世界の写真展示。試食が付いてないからなぁ…と思ったものの、さすが「美」を愛する国民。閑古鳥なんて鳴いていませんでした。

(5) 街角のパン屋さんの、自主参加

街のパン屋さんも参加、と予告にありました。こういった場合、「胸ときめく」商品を期間限定で陳列販売するのだそうですが、よほどフランスのふだんの食に精通していないと、普通の日本人が見ると「すべてに胸ときめく」ので、「特別商品」は見極め不可能。でも、「みんなでこの週間を盛り上げよう」という意識は、買い、です。

(6) 五感の館で味体験

パリ市の建物「五感の館」は、香り豊かなハーブが風にたなびく庭に抱かれています。建物の外では、カラフルな紙に包まれたスパイスの香りをかいで、中身を当てるゲーム。建物の中には味に関する楽しそうな絵が壁じゅうに描かれ、座れば親子で目をつぶって味当てゲーム。お土産は、自分たちで作るスパイス調味料でした。味のこと、舌のこと、とっても意識するようになる体験です。

食の週間は、こうした楽しいことばかりが目に付きますが、専門家が病院食について改革案を討論したり、家庭の食について調査結果を報告したり、といったことも年毎に行われています。また、消え行く伝統の農作物を守ろうと、農園を開放したり、種の展示をしたり、ということもあります。さらに、星付きレストランが特別価格メニューを用意するということも、毎年行われています。

まつなり ようこ