たまご社発 食育通信

イラスト©森泉 千亜紀
「名シェフが教えるおいしい野菜料理」
(株)旭屋出版

名シェフが教えるおいしい野菜料理

その6

「味」を伝える
フランスの食教育


今回は、食に「関心度」が極めて高いフランスのお話をしたいと思います。

フランスといえば、華やいだ印象と裏腹(?)に、農業自給率がほとんどの品目で100%を超える農業大国であることはご存じですか? 農産物の輸出力でもアメリカに次いで世界第二位という事実。フランス人にとって食べ物は文字通り、国際社会を生きていく糧でもあるのです。

さらにフランスに行けば、世界中の金持ちを呼び込む三ツ星レストランがあり、美味しいワインがあり、パンがあり、じゃがいもだけでも何十種類とあり、日本と同じマガキもたっぷりとあり、塩も砂糖も何種類とある。町にはテイクアウトの総菜屋さんだけでなく、パティシエ(菓子職人)が腕を振るう、まるで宝石が並んでいるようにおしゃれな菓子専門店もチョコレート専門店もある。
日曜日には街角に次々と市が立ち、農家の人々が朝、採りたての野菜をどっさりと並べる風景もどんな町にも見られます。

けれど、けれど、こんなに食べ物が豊かな国でさえ、大人が危機感を覚えるような状況がついに来たのです。それは、子どもたちの食生活の変化でした。

朝ごはんは手軽さとダイエット嗜好でシリアル(なぜか、フランスパンよりシリアルのほうが太らないと思っているらしい)が好まれ、国民の魂だと思っていたフランスパンの消費量はどんどん減る。大人がテレビをつける夕食に、子どもの耳には携帯式プレーヤーのヘッドホン。友だちと出かければアメリカから来たファーストフード店に立ち寄り、大手資本の画一的なレストランも、若い世代に支えられて着々と増えていく。ついには、世界中から客を呼んでいた三ツ星レストランも自国民が行かなくなって倒産するところが出てくる始末。

こんなことで我が国は本当に大丈夫か、との危機感から始まったのが、小学4、5年生を対象にした「味覚の教育」でした。これが1990年11月に任意の小学校でスタート。ワインの味の研究家ジャック・ピュイゼ氏の手法がもとになりました。

ここで私がおもしろいと思ったのが、日本のような栄養教育ではなく、「味覚」という非常に個人的な、けれど考え方によっては国民のアイデンティティーをも呼び起こすような分野から切り込んだことです。当時読んだ日本語のレポートには「舌教育」と書いてありました。

フランスの資料には、こういった「味覚教育の目的」は、画一的食品のために衰弱した感覚を発達させるためとか、生物学、歴史、言語表現力、地学の知識を広げるためとか、自己を確立し、他との相違を自覚させるためとか…、難しいことが書いてありますが、日本の新聞でもよく紹介されてきたのは、これらの年間活動のお祭り部分、言い換えれば文化祭のようなシーンです。それは、毎年10月の第三週。町の一流シェフが真っ白いコックコートに身を包んで小学校の教壇に立ち、子どもたちに食べ物の話をしてくれるシーンです。これ以外にも、子どもたちが地元のチョコレート屋さんや農家を訪ね、食べ物の作られるシーンを見るといった企画もあります。

一般の大人にも、この間、美味しいチャンスはいくつもあります。公園に張られたテントの中で試食コーナーをはしごしたり、そこに立つプロが一消費者の質問に答えてくれたり、料理専門学校や地元の大学の食に関する講義が無料公開されたり、ワイン博物館で試飲がたっぷりできたり・・・。親子で味覚教室参加、というのもあり。次回は、こういった一般向けのイベントをお知らせしましょう。日本でもできそうなヒントがいっぱいありそうです。

まつなり ようこ