たまご社発 食育通信

イラスト©森泉 千亜紀
「名シェフが教えるおいしい野菜料理」
(株)旭屋出版

名シェフが教えるおいしい野菜料理

その10

待たれていた
  「親子料理教室」


「食育」は文字だけでできるものではありません。情報をあふれさせるなら、それを実行できるだけの用意がなくては…。そんな思いがつのって仲間たちと立ち上げたのが、「NPO法人食育研究会Mogu Mogu」です。その全景や詳細は、ホームページを見ていただくとして、今回は、その中で最も開催頻度が高く、人気も高い「親子料理教室もぐもぐランド」の紹介をしたいと思います。

「親子料理教室」そのものは、よくありそうな話。ただ「もぐもぐランド」の特徴は「土日に」「継続的に」開催することと、参加者にとっても「会員制で優先的に」「参加した会だけ料金を払えばいい」というシステムでした。内容も、「食育」ですから、料理だけに終始しません。

対象年齢は「3歳以上」ということ以上の制約はなし。兄弟姉妹みんな参加して、一つの班は様々な年齢で構成され、そのなかで助け合ったり譲り合ったりするのも、大切な「食体験を分け合う」時間と考えたからです。一人っ子姉さんのリーダーシップのもとで、甘えん坊のボクちゃんがお手伝いをがんばる。それを両方の母親が微笑ましく見守り、「子どもの意外な面を発見」ということもしばしばです。

開催は原則、月2回。会場は南浦和と南越谷。ともに駅から徒歩10分内。10時集合で、午後1時半が解散の目安。参加費は大人も子どもも一律1300円。当NPO法人の正会員になれば1000円です。そして、当日のイラスト入りレシピが200円。ここには「今日のメニュー(参加者が作るものの他に、当会のスタッフが作って添えるだけのものもあり)」、それらを1食としての総合栄養評価、さらに、自分のコメントを書くスペースも用意されているので、できれば子ども一人に1部が理想的。水ぬれ対策として1枚ずつ30穴のクリアファイルに入れてお渡ししますから、多くの人は100円ファイルにためているようです。

さて、この会で大切にしていることは数々あれど、まず、親御さんにお願いしているのは

  1. 今日の、この親子で食べ物を囲む時間を楽しんで下さい。怒ったり、イライラしないで。
    困ったらスタッフが手助けに入りますから。
  2. 今日のこの「味」を、ぜひ言葉に出して話して、お互いの共通の思い出にして。
  3. 1、2ができたら、あとはケガに気をつけて、できるだけ美味しい料理ができますように。
    という順序です。

つまり、このひとときは「料理作り」が最大目標ではなくて、《食の時間の共有》です。雨の日でも、せっかくの休日をつぶして、時には下の子どもを保育に預けて気になりながらも、いつも我慢させている上の子どもとしっかり向き合う時間を取ろうとして参加するママもいます。本当は家で休んでいたいパパが、三角巾をして息子と一緒に「男組」でいらっしゃることもあります。そんな親の思いは、きっと子どもの心にしっかり届くはず。それも一緒に食べ物を作りながら、一緒に食べながら「ママがあの時お塩をふりすぎたから、からいんだよぉ」「ごめんごめん」なんて、なんて素敵なひとときなんでしょう。

始まる前には、身じたくや手洗い、危険なことは歌にして最終確認。そしていよいよスタートです。

料理ができたら、全員そろっていただきます。互いのマナーもここで確認しつつ、食べ終わるころあいを見て、「今日の栄養のまとめ」をします。その日に使った食品を3色グループに分ける時は子どもたちにも参加してもらうから、もう大騒ぎ。先生から正解を聞いたら、「栄養の歌」を全員で合唱して、「ごちそうさまでした」という流れです。

驚くのは、この歌を小学校低学年でも4番までそらんじて歌えたり、初めて参加のお父さんが大きな声で歌っていたり。ちょっと古い気質の残る私は、「いまどきのお父さんて、すごい」という素直な感動をいだきます。

この3時間半の中で忘れてはいけないことが一つ、ありました。毎回多彩に組まれる「ミニ学習」です。昔ながらの八百屋さんに来ていただいたり、関東農政局に出張講座をしていただいたり、本物のシェフが本物の野菜の味を食べさせてくれながら「安全な食は、家庭から」と熱心に説いてくれたりと、ゲストが大活躍のこともあれば、羊腸にひき肉を詰めてソーセージを一から作ったり、魚のはらわたを子ども一人ひとりが自分の手で処理する経験をしたり。お箸の持ち方やご飯は向かって左に置く理由を習ったり。家庭でもなかなかできない「ここならでは」の体験学習もしていただきます。

「料理教室」といいながら、本来の目的は食育だから、「料理」にばかり比重は置いていません。けれど嬉しいのは、確実にリピーターが増え、時には定員24人をさらに28人まで無理して広げてなお応募数を抱えられず、2回開催を3回まで増やすこともたびたびあること。さらに「この地区でもやって」と県内各所から要望をいただくことです。「待たれていた」と、実感する瞬間です。

こまかなノウハウを積み重ねてきたいま、この会の次の課題は講師を増やすこと。だから秋には講師養成コースも作ろうと準備中。そのほか、様々な意見から、大人だけ、バスツアー、農業体験、食事だけ、国際交流の会など、展開は多彩に広がっています。ご興味のある方は、HPをのぞくか事務局(048-875-7549)までどうぞ。スタッフも常時募集中です。

まつなり ようこ