From Editor

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No.8

「働くこと」について

私の弟は今年で24歳。とうに大学を卒業したというのに未だ働いていない。いわゆる流行のプータローである。なぜプータローになったかというと、大学を卒業してから海外へ留学、1年後帰国、そしてそのまま職に就かず、現在にいたっているからだ。あぁ、なんとシンプルな方程式。投げたボールが地面に落ちるがごとく当たり前の成り行きで、今の彼は存在している。

弟はプータローだけど、彼の名誉のために言っておくと、彼は決して職に「就かない」わけではない。現在、就職活動中。でも、なかなか内定がもらえない「就けない」組なのだ。仕事に就けなくて早3ヵ月。どうしているかと思って、こないだ実家に電話をかけてみた。

「まぁ、ぼちぼちやってますよ」と相変わらず単調無味な弟の声。また別の日にかけると今度は母が出たので、彼の就職活動はどうかと尋ねた。「ダメ、ダメ。いくつも受けてるけど、みんなダメ。それどころかはなから行く気もないのに受けた会社もあって、そこの面接は『行く気ないから、集団ディスカッションでは何もしゃべんなかった』って帰ってくるのよ。そりゃ、落ちるわよ」との返事。あ~、なんと情けない。そう思いつつ、面接に行かない日は何をしているのかと聞くと、「今日は『ヒマだから』と言って山登りに行ったわよ」。ここまでくると本格的に腹が立ってきて、母に言うのもお門ちがいかと思いつつも「彼は本気で社会をなめているのではないか」等々いささか説教口調で私の気持ちを伝えたところ、「そうでしょ。だから私も、もうお小遣いあげるのやめようかと思うの」と母。えっ! お小遣いあげてたの!? 受話器を持つ手の力が抜けていく。おぉ、ブルータスお前もか、の心境でいまや説教すべきは弟一人ではないと気づく。母の「子離れできない問題」発覚で、一瞬気が遠くなったが、どうにか気を持ち直して最後は「お母さん、バイトぐらいさせようよ」と母を諭して、私は電話を切ったのだった。

弟の場合、結局のところ「自分が何をやりたいか」が見つけられないのが、職探しにおいて致命的なようだ。しかし生まれもっての富豪でもない限り、やりたいことがわからなくても、人は生きるために何かしら自分の中で折り合いをつけて、働かなくてはならないはずだ。もちろん面接で「なぜわが社を希望するのですか」と質問されて「食べていくためです」ではダメだろうから、それなりの「何か」をもって…。

以前、新聞のコラム欄で読んだ、ある職人さんの言葉を思い出す。その職人さんいわく「自分が誠実に仕事をすることを忘れたら、仕事をする意味がない」。そして毎日「誠実」という字を筆で100枚書くのだという。

「働くこと=やりたいこと」とつなげてしまうと、やりたいことがわからない人にとっては出口のない迷路だ。しかし、やりたいかどうかだけでなく、その仕事に「誠実に向き合えそうか」も含めて職を探せば、少しは出口も広くなるかもしれない。たとえばそれは仕事内容だけでなく、ついていけそうな上司がいるなども含めれば、もっと広くなるのかも。

いずれにしても弟よ、プータローはよくないぞ。ましてやヒマで山登りへ行くなど、もってのほか。親に甘えないでアルバイトぐらいしてください。母の「子離れできない問題」については、また後日。なんだかうちは問題の多い家族のようです。

世話焼き編集スタッフ 藤井 久子