From Editor

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No.11

私のおすすめの本

日を追うごとに真夏の暑さが近づいている。昼の疲れがどっと夜に出て、いま一番の楽しみは「心地よい眠り!」などと考えている私。にもかかわらず最近、寝る間も惜しんで読んだ本が2冊ある。五木寛之の『人生案内』(角川書店)と『人生の目的』(幻冬舎)である。 

『人生案内』と『人生の目的』。両冊とも内容はタイトルそのまま、人生観や人間の存在意義について書かれた本である。いわゆる哲学書の類はいっさい読まない私がたまたま本屋で見かけ、有名な著者だし1冊ぐらい読んでみようかと気まぐれに買ったのだが、読んでみると、なかなか面白い。テーマがテーマだけに内容は重いのだが、普段は心の奥にしまっていたような、「寝たら忘れるかな」と思っていたような、マイナスの気分をふっと軽くしてくれる効用がこの本にはある。

おすすめの本

読む者を引き込むこの本の力は、ひとえに著者の人柄がにじみ出た語り方にあるらしい。基本的に著者は、控えめである。自分の主張を押し付けない提案タイプ。だから読んでいるほうも疲れない。また、たとえ話が好きなタイプのようで、親鸞聖人の話、アウシュビッツ収容所の様子を書いたフランクルの『夜と霧』の話、小さな箱の中で11,200kmの根を伸ばしたライ麦の話などなど、落とし所はそれぞれちょっとずつちがうものの、1冊の中で「あっ、その話さっきも聞いた」というたとえ話が何度も出てくる。さらに、2冊通して読んでみると、異なる出版社で出した本でも同じたとえ話が出てくる。さらにさらに、『大河の一滴』でも親鸞聖人の話は出てくるようだ。私なんかは職業柄、同じことを違う出版社の本で言うのってアリ? とか、それって行数かせぎじゃないの?

なんて失礼にも思ってしまうのだが、著者本人もそういうツッコミは重々承知の上らしく、「うん、さっきも言ったし、他の本にも書いたんだけど、でももう1回言わせてね」という具合に、2度目からのたとえ話には毎回ていねいに断りを入れているのである。こういう断り文、著者の茶目っ気が多分に感じられて、私はちょっと好きだ。ついつい「五木さんってかわいいなぁ」と思ってしまう(←失礼)。それに、ここまで何冊にもわたって使いまわすのだから、もしかしたらこの上なく自分の伝えたいことを言い得た究極のたとえ話なのかもしれない。

たとえ話は多すぎるとしても、やはり最後は著者の伝えていることが読者の心を揺さぶるのは間違いない。ちょうどこの2冊を読んでいたとき、長崎で小学生が同級生を殺害する事件があった。五木さんの著書は、大人だけでなく、今回の事件を起こしてしまった女の子をはじめ、今の子どもたちにも教えてあげたいメッセージがたくさん詰まっている。子どもたちが彼の本を手にとるのはもう少し先のことかもしれないが、この本を読んだ大人たちが、彼のメッセージを自分なりに消化して、子どもたちに噛み砕いて教えるのはいいかもしれない。かく言う私も寝る間を惜しんで読んだものだから、もし、一人で悩んでいる子どもがいたら、こんな一節を教えてあげたい。

「つまり、生活のディテールを愛するということが、いかに大事かということです。~中略~ 歌が好きとか、音楽を聴いて喜ぶとか、絵を見たり美術を愛するとか、デッサンをするとか、俳句に凝っているとか、いわゆる趣味と言われるようなものをたくさんもっている人ほど、ひょっとしたら、ぎりぎりのところで強い生き方ができるんじゃないか、ということをときどき考えることがあります。」(『人生の目的』より)

10代は多感な年代である。まだ、「あきらめる」ということを知らないから、友だち関係、恋愛などで壁に突き当たったとき、全力でぶつかろうとする。でもそんな時は、その豊かな感受性を壁に向けるのはやめてしまおう。習い事やスポーツや読書や、帰り道のきれいな夕日や、道端で寝ているネコなどに感受性を向けてみてはどうだろう。そういうことでドキドキ、わくわく、ほのぼのすることも、友だちや恋愛と同じくらい長い人生では大切なことなのだから。

ここで紹介した私が五木さんから読み取ったメッセージは、まだほんの一部。みなさんも、機会があれば読んでみてください。おすすめです。

編集スタッフ 藤井 久子